心理士推薦図書 part7

スティル・ライフ

池澤夏樹 著

少し狭い世界の話から始めましょう。音楽にさまざまなジャンルがあるようにというか、トランプの大富豪にいくつものローカル・ルールがあるようにというか、心理療法(カウンセリング)全体を一つの県とするといろいろな市町村がありまして。その中には認知行動療法(CBTと略されます)という村もあり、六階の心理士の何人かはこの住民です。

CBT村ではしばらく前から、不安・悲しみなどの辛い感情やそれに関係する出来事・考えをなんとか避けようとしたり必死に抑え込もうとしたりすること(それ自体はとても自然なことです)がかえって悪循環を招き結果的に生活の質(Quality Of Life)を低下させてしまう……というパターンが話題になっていました。そこで、悪循環から抜け出すための方法の一つとして、もがいたり戦ったりするのを一旦止めて、自分の心や身体、周りの状況をゆっくり観察してみよう、といったことを試しながら程良い付き合い方を探していくのですが、詳しいことを書いているとどんどん長くなってしまいますので、この辺にしておきましょう。こおあたりの話題に興味があるという方には、ラス・ハリスによる『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない』(筑摩書房)という本が分かりやすくオススメです!

さて、こうした考え方に触れたときに思い浮かべたのが今回の一冊です。自分の中で起こっていること、自分を取り巻く世界のそれぞれをそのままに眺めること。私自身、思い通りにならないことだらけの日々で時々立ち止まって思い出します。星や雪などいわば世界が、出会いや別れなどいわば人生が、少し違って見えるようになる。そんな機会になったならば幸いです。

臨床心理士 東

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心理士推薦図書 part6

カウンセラーおすすめの一冊

著者 木皿 泉(きざら いずみ)
出版社 河出書房新社

人気脚本家、木皿泉が執筆したはじめての小説で、第11回本屋大賞を受賞した「昨夜のカレー、明日のパン」をご紹介します。
この本は、人の生き死に、大切な人を失くした喪失感という重い題材を扱いながらも、登場人物の軽妙なやりとりが、切なさのなかに温かい優しい余韻を読者に与えてくれます。

以下のように、はっとさせられ、一筋の光を放つ言葉の数々・・・

「世の中、あなたが思っているほど怖くないよ。大丈夫」
「人は変わってゆくんだよ。それは、とても残酷なことだと思う。でも同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」
「動くことは生きること。生きることは動くこと」
「この世に損も得もありません」
このような、宝物のような言葉がストーリーに散りばめられているのです。

物語は、20代前半で夫を亡くした「テツコ」とその「ギフ(義父)」を中心に、このふたりを取り巻く味わい深い登場人物たちが織りなす日常を描かれています。
この作品では、脇役の描かれ方が秀逸です。たとえば、笑い方を忘れた元航空会社の客室乗務員、深刻な病状の患者の前でも笑ってしまう男性産婦人科医、バイク事故のケガが原因で正座できなくなってしまった寺の坊主、といった登場人物たちが、悩みや痛みを抱えながら、それぞれの居場所を見つけていくさまに、優しく励まされる思いがします。
昨夜のカレーを今日の昼食に食べ、明日のパンを買いにいく。そんな連綿と続く日々の生活を丁寧に紡いでいこう。そんな気持ちになる一冊です。
みなさんが、この本を手に取り、穏やかな気持ちを味わって頂たらと思います。

臨床心理士 小林 賀代

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心理士推薦図書 Part5

心理士おすすめの一冊

「星の王子さま」

今回は児童文学からの一冊。児童文学ですが、大人にも、むしろ大人にこそ、大切なことを思い出させてくれる物語なのかもしれません。いまの自分がどう感じるか、再読することで、自分の変化に気づくことがあるかもしれません。

冒頭の献辞に「子どもっだたころの○○へ」という言葉があります。大人になって忘れてしまったこと、純粋さや、時に残酷さを含んだ無邪気なこころ。この言葉は、そんな“子どもごころ”の大切さに触れることや、自分の心に向き合う方向へ導いてくれるような気がします。あの頃の自分はどう思っていたのか・・・

「肝心なことは、目に見えない」

人と人との関係が出来る時に「目に見えない大切なこと」物語では、キツネが教えてくれます。時間というものもそのひとつ。ストレスに悩まされ、忙しい日々の中で形あるものに捉われすぎてしまい、目に見えないけれども大切なものを忘れてしまっていることがあるかもしれません。他には、どんなものがあるか探してみてください。
この物語にはたくさんの素敵なエピソードや言葉がちりばめられています。読んだ方、それぞれが感じることがあるのではないしょうか。大人になって堅くなって偏ってしまった考え方をほぐすきっかけになるかもしれません。柔軟なこころを持つことは、ストレスの対処や楽しむ力の向上など、こころの成長につながるでしょ

2016年がスタートしました。いろいろな物事を見て・聞いて・感じて・考えて、こころを豊かに、楽しむことを増やしていける1年となることを願っています。

臨床心理士  亀井 宗

心理士推薦図書 Part4

第4回  お勧めの一冊

【パンダフルワールド】

写真:佐渡多真子/文:みきーる出版社:アスペクト

この本は、パンダの写真とそのパンダが発しているような一言、二言が添えられていて、すぐに読めてしまいます。
わたしがこの本をお勧めする理由もすぐにパラパラと読めてしまうところにあります。
健康や自己啓発のためになる本はたくさんありますが、元気のない時は、字ばかりの本を読み進めるのは苦痛を伴う場合もあります。人は気持ちが塞ぐ時や不安な時、何もしないでいるといろいろな想念で頭がいっぱいになって、考えなくていいことまで考えてしまうことがあります。考えても考えても結論や解決法が出ないことはあり、考えれば考えるほどエネルギーは消耗し活動が抑制されて、さらに落ち込みや不安が高まるというような悪循環になりがちです。答えのない考え事に時間やエネルギーを費やすよりは、たわいない、ちょっとくだらないことに触れてでも、考えることから離れられる時間ができたらいいなと思います。

この本の紹介を少ししますと、まず、パンダのゆったりとしたほんわかでマイペースな雰囲気に癒されます。それから、添えられている言葉に、時々ドキッとしたり、ホッとしたり、ニヤッとしたりすることもあります。突っ込みを入れるのも一つの感じ方かもしれません。その人の、その時、その状態によって、感じ方や受け取り方は様々だと思います。今のあなたはどう感じられるでしょうか。
一度この本を開いてみてください。 臨床心理士 鎌田江里子

心理士推薦図書 Part3


第3回 お勧めの一冊

妻と娘が選んだ「吉野弘の詩」

詩人の吉野弘さんをご存じでしょうか?
ご本人を知らなくても・・・
『二人が睦まじくいるためには愚かでいる方がいい』で始まる「祝婚歌」や
『やさしい心の持ち主は・・・』とつづられた「夕焼け」
なら知っているという方がいらっしゃるのではないかと思います。

吉野さんは、残念ながら昨年2014年にお亡くなりになりました。
奥様と二人のお嬢様が選ばれた詩を集めた本がこれです。

ご家族ならではの視点で選ばれた数々の詩は、その作品の素晴らしさもさることながら、
ご家族の思いがこもっている感じが更なる感動を呼びます。

誰にでも日常を詩に表現された作品が多いですが、その中にグッとくるところがあります。

難しい言葉は使われていないので、普段詩集を読むことがあまりない方も読みやすいと思います。

ぜひ、ご覧になってください。

療法心理士  木下 芳美
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心理士推薦図書 Part1

当院で従事している心理士のお勧めする本を、順次リレー式で御案内いたします。
それぞれの個性が窺えて興味深いものとなっています。御期待下さい。
院長

第1回 お勧めの一冊
「3月のライオン」

少しずつ過ごしやすい季節になってきましたね。「読書の秋」秋の夜長に読書を楽しんでみませんか?第1回お勧めの本は、マンガからの一冊。いつもは、マンガを読まれない方も、少し違った角度で物事を楽しむきっかけになるかもしれません。

競争社会である将棋の世界をテーマとした作品です。17歳でプロ棋士となった少年とその周りの家族やライバル、様々な人間が、”何か”を取り戻していく優しい物語です。
この作品は、何かが「好き」なだけでは、成り立たない現実をみせてきます。大人になるとは、そういうことなのかもしれません。働くこと、生活すること、生きること、しなければならないことが多すぎるのかもしれませんね。では、何かを「好き」になるという気持ちはどうなるのでしょうか?

この作品は、主人公だけでなく、すべての登場人物にドラマがあります。それぞれの人物が、それぞれの現実に向き合うことで、何かを「好き」になるとはどういうことかを深く考えさせてくれます。それは「何のために働くか」「何のために生きるのか」ということにつながっているような気がします。

主人公だけでなく、登場する誰かに自分を映したり、もしかしたら無意識のうちに自分が映っていたりするかもしれません。そんなことを思いながら読んでみることも、おもしろいかもしれません。

臨床心理士 亀井 宗