心理士推薦図書 part7

スティル・ライフ

池澤夏樹 著

少し狭い世界の話から始めましょう。音楽にさまざまなジャンルがあるようにというか、トランプの大富豪にいくつものローカル・ルールがあるようにというか、心理療法(カウンセリング)全体を一つの県とするといろいろな市町村がありまして。その中には認知行動療法(CBTと略されます)という村もあり、六階の心理士の何人かはこの住民です。

CBT村ではしばらく前から、不安・悲しみなどの辛い感情やそれに関係する出来事・考えをなんとか避けようとしたり必死に抑え込もうとしたりすること(それ自体はとても自然なことです)がかえって悪循環を招き結果的に生活の質(Quality Of Life)を低下させてしまう……というパターンが話題になっていました。そこで、悪循環から抜け出すための方法の一つとして、もがいたり戦ったりするのを一旦止めて、自分の心や身体、周りの状況をゆっくり観察してみよう、といったことを試しながら程良い付き合い方を探していくのですが、詳しいことを書いているとどんどん長くなってしまいますので、この辺にしておきましょう。こおあたりの話題に興味があるという方には、ラス・ハリスによる『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない』(筑摩書房)という本が分かりやすくオススメです!

さて、こうした考え方に触れたときに思い浮かべたのが今回の一冊です。自分の中で起こっていること、自分を取り巻く世界のそれぞれをそのままに眺めること。私自身、思い通りにならないことだらけの日々で時々立ち止まって思い出します。星や雪などいわば世界が、出会いや別れなどいわば人生が、少し違って見えるようになる。そんな機会になったならば幸いです。

臨床心理士 東

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