心理士推薦図書 part6

カウンセラーおすすめの一冊

著者 木皿 泉(きざら いずみ)
出版社 河出書房新社

人気脚本家、木皿泉が執筆したはじめての小説で、第11回本屋大賞を受賞した「昨夜のカレー、明日のパン」をご紹介します。
この本は、人の生き死に、大切な人を失くした喪失感という重い題材を扱いながらも、登場人物の軽妙なやりとりが、切なさのなかに温かい優しい余韻を読者に与えてくれます。

以下のように、はっとさせられ、一筋の光を放つ言葉の数々・・・

「世の中、あなたが思っているほど怖くないよ。大丈夫」
「人は変わってゆくんだよ。それは、とても残酷なことだと思う。でも同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」
「動くことは生きること。生きることは動くこと」
「この世に損も得もありません」
このような、宝物のような言葉がストーリーに散りばめられているのです。

物語は、20代前半で夫を亡くした「テツコ」とその「ギフ(義父)」を中心に、このふたりを取り巻く味わい深い登場人物たちが織りなす日常を描かれています。
この作品では、脇役の描かれ方が秀逸です。たとえば、笑い方を忘れた元航空会社の客室乗務員、深刻な病状の患者の前でも笑ってしまう男性産婦人科医、バイク事故のケガが原因で正座できなくなってしまった寺の坊主、といった登場人物たちが、悩みや痛みを抱えながら、それぞれの居場所を見つけていくさまに、優しく励まされる思いがします。
昨夜のカレーを今日の昼食に食べ、明日のパンを買いにいく。そんな連綿と続く日々の生活を丁寧に紡いでいこう。そんな気持ちになる一冊です。
みなさんが、この本を手に取り、穏やかな気持ちを味わって頂たらと思います。

臨床心理士 小林 賀代

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