今、企業に本当に求められているメンタルヘルス対策とは

うつ病は世界的に増えており、生涯にうつ病に罹る確率は10−15%以上ともいわれており今世紀最大の現代病といっても過言ではないだろう。本邦でも職域におけるうつ病患者が急増し、企業に勤める社員の1−5%がうつ病と言われている。
企業において休みがちな社員や休職者を抱えることは大きな負担となっており、うつ病を中心としたメンタルヘルス対策は企業のリスクマネジメントにおける最重要課題の一つであることは周知の事実だ。
しかしストレスに満ちた現代社会でヒトが他人と関わりを持って生きている限り、うつ病の確実な予防法など存在せず、ましてやリストラ・コスト削減・成果主義の導入といった閉塞感の強い職場環境下では、職場のうつは増える一方だ。

うつ病は「こころのカゼ」のようなもので、服薬コンプライアンスのいい薬も開発されており早めに専門医を受診しましょうという官民一体となった啓蒙活動は、一定の成果をあげている。休職した上でうつ病の標準的治療を施行することにより、一見治ったような状態−寛解−に至ることは比較的容易になった。しかし、現代の働く人のうつ病診療における最大の問題点は、実は復職後の再休職が非常に多い点であることは人事労務・産業精神保健スタッフを除くと、特に企業のトップにはあまり知られていない。
医療者が復職可能と判断した患者の状態と、企業側が期待する復職時のパフォーマンスとの乖離が、再休職の原因の一つと言われている。
薬物療法と休養を中心とした標準的な治療では、初発のうつ病患者の再発率は30%以上とされ、いったん再発すると再再発の可能性は90%以上という数字もあり、いかに再発を防ぐかが現代のうつ病対策の唯一・最大の問題点であり、これはもはや診療室の中の医師と患者の間の対話とクスリだけでは克服できないことは明らかだ。
このような企業の切実なニーズに応えるべく、全国のいくつかの精神病院・メンタルクリニックで復職支援プログラム(リワークプログラム)と呼ばれる集団精神療法が産声をあげつつあるが、保険診療上の制約や経営母体・人員・予算の問題などから作業療法やオフィスワークが主体となっており十分な効果を上げるには至っていないのが実情である。
当院が開発したリワークプログラムは「徹底的に脳(思考)を変えなければうつ病は再発する」という確信のもと、集団での心理教育やディスカッションを通じて自己洞察を深め、うつ病特有の認知の修正を図り、対人関係スキルやストレスマネジメントを習得することに特化している。さらに個人認知療法を併用して集団での心理療法を補完している。
このような徹底した認知療法への特化と、個人療法と集団療法との融合させたリワークプログラムは世界でも報告がなく、早期復職・再休職予防に成果をあげているが、さらなる装置の開発とデータの蓄積が今後の使命である。

今、多発するうつ病社員に悩む企業に本当に求められているものは、マニュアル化・形骸化した予防プログラムの提案をするEAP(従業員支援プログラム)サービスではなく、うつ病社員の適切な集学的治療と、復職準備性を高め再発・再休職をより確実に予防するリワーク・ツールを持った医療サービス複合体ではなかろうか。

唐渡雅行(とわたりまさゆき)
医療法人清聖会 とわたり内科・心療内科 理事長
竃シ古屋メンタルヘルスコンサルティング 代表

略歴
1986年名古屋大学医学部卒。
名古屋大学大学院医学系研究科を修了したのち、英国へ3年間研究留学をする。
内科と精神科の各専門医を併せもつ心療内科のスペシャリスト。
2004年6月より名古屋駅より徒歩5分のところに心療内科クリニック(とわたり内科・心療内科)を開院する。
2008年6月にはリワークプログラム・EAP(従業員支援プログラム)を中心としたメンタルヘルスをサポートする会社(名古屋メンタルヘルスコンサルティングNMHC)を立ち上げる。